この連載は、筆者が2024年に悪性リンパ腫(血液のがん)を患い、寛解を経て会社を退職、いわゆるサイドFIREを選択した顛末を綴るドキュメンタリーです。全5回にわたり、一人の氷河期世代のおっさんの葛藤と決断をご覧いただき、参考にしていただけるところがあれば幸いです。
――「再発のリスク」を損切りに変えた日
復職したものの、以前のように機能できない自分と、変わらぬスピードで回り続ける組織。その板挟みの中で、私は自分自身の人生を計り始めていました。
その最大の変数は、「再発のリスク」でした。
1. 20〜30%という確率の重み
私が患った悪性リンパ腫は、寛解(かんかい)を迎えてから最初の1〜2年間の再発率が2割から3割程度と言われています。5年を過ぎればリスクは健常者と同じレベルまで下がりますが、今はまだ、その「警戒区域」の真っ只中にいます。
もし、再発してしまったら。 それは標準的な治療が通用しなかったことを意味し、状況は一気に「ややこしく」なります。今のように、健康な体で自由にどこへでも行けるという当たり前の権利に、大きな制限がかかることになります。
2. 「健康な時間」という希少資産
この状況をビジネスの視点で捉え直したとき、一つの結論に辿り着きました。
もし再発せず、このまま5年、10年と健康でいられたなら、それは「めでたしめでたし」です。その時に会社を辞めていたとしても、失うのは「会社員としての給料」に過ぎません。
しかし、もし再発してしまったら。 その時、私は「ストレスに耐えながら、無理をして会社に通い続けた時間」を、死ぬほど後悔するのではないか。
今の私にとって、自由に動ける時間は、何物にも代えがたい「希少な資産」です。その貴重な資源を、生きがいを感じるどころか、もはや「苦行」に近くなりつつある仕事に投下し続ける。
それは、投資判断としてあまりに合理的ではない。そう確信しました。
3. 「今、自由であること」の価値
「会社を辞めて何をするのか」と問われても、当時はまだ明確な答えはありませんでした。 ただ、毎日を万全の健康状態で過ごせるという贅沢、そして「自由を謳歌できる時間」。それらは、今この瞬間にしか存在しないものです。
「万が一、再発したときに、この時間を仕事に捧げたことを後悔したくない」
そう思ったとき、私の中の「損切り」の決断は固まりました。 これまで築き上げてきたキャリアや地位、安定した収入。それらを「ホールド」し続けるコストは、今の私の人生にとって、あまりに重すぎたのです。


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